
前回のブログで書かせて頂いた、モンシュシュ事件ですが、その訴訟の結果は、商標権侵害を認め被告(現モンシェール)が、原告のゴンチャロフに、5100万円の損害賠償の支払いを命じるものでした。
モンシェールにとっては、会社のブランド力の低下ならびに会社の業績に大きなダメージをもたらした事件と言えます。
しかも、モンシェールが「モンシュシュ」という商号で商品の発売をスタート後しばらくして、コンサルタントから「モンシュシュ」という商号の使用が原告商標との関係で問題があることの指摘を受けていたにも関わらず1年近くこのリスクへの対策を取らなかったのです。
商標登録の重要性を軽視してしまった事による悲劇の典型的な事例の一つです。
尚、本件において、被告(モンシェール)は、商標の使用が「洋菓子の小売」という役務(サービス)に対するものであり、「洋菓子」という商品への使用ではないと主張しましたが、裁判所は、原審および控訴審ともその主張を認めませんでした。
なぜ被告の主張が認められなかったのかは、商標法についての理解を深める必要があります。
商標法は、商標の登録において、登録を受けようとする商標に加え、その商標を使用する対象となる商品もしくは役務(サービス)を指定することを求めています(商標法第5条第1項第3号)。
したがって、商標は原則として、指定した商品もしくは役務への使用に限って独占的な使用を認めるものであり、それとは異なるものに使用している第三者の行為を禁止する効力を持つものではないことになります。
しかしながら、異なる商品間であっても、需要者が両商品の間に何らかの関係性を認め商標の出所を混同する場合があります。このような場合を放置したのでは商標を独占権とした意味がなくなります。したがって、商品が厳密には同じものと言えない場合でも、両者に類似性があるとして、登録商標と同一もしくはこれに類似する第三者の標章の使用を禁止することが必要となります(商標法第37条)。なお、商品の類否の判断においては、同一の出所によるものであるかのごとき出所の混同のおそれがあるかどうかを基準とする混同説が採用されています。
すなわち、上記事件の裁判では、「商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え、出所の混同を招くおそれがある」以上、非類似とはいえないと判断されました。商品とサービスは商標法上の商品・役務分類という考え方の中では別に扱われているものの、現実にはある商品とその商品に係るサービスは出所の混同を引き起こす危険性が高く、裁判所の判断は妥当であると考えられます。(商標法第2条第6項参照。)。
尚、モンシェールは、同じ「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」商標を「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供、及びこれらに関する情報の提供」を指定役務として取得しており、喫茶店におけるサービスに使用することは法により認められていたことになります。もし、モンシェールが運営する喫茶店の店舗内の表示や喫茶店のパンフレット・ホームページ等における宣伝として使用されるにとどまっていたのであれば原告商標の侵害とはされなかったと考えられます。
それを超えて、ケーキの包装等に、その商標を使用したために権利侵害とされるに至りました。
逆を言えば、「モンシュシュ」という商品を商標登録してチョコレートを販売していたゴンチャロフは、この商標法によって自社製品の価値を守る事が出来た事になります。
やはり、自社の商品やサービスを商標登録しておくことの重要性がこの事例でも理解できると思います。
尚、法律問題に関しては、その分野独特の考え方が存在し、素人的判断は危険な場合があります。
商標に関してご不明な点や不安に思われる事、そして、これから商標登録を考えられている方は、是非、私ども奈良特許事務所にご相談下さい。